アトリエからのメッセージ
体験を重ねる
= 自由な制作のための準備
その人が本当に好きな制作をしていく道筋は、
そのひとが自分を練って、自分を知っていく道筋だと思っています。
アルケミストは2000年に開設して以来、
みんなが自由にものを作る、という
制作スタイルを続けてまいりました。
同じ時間・同じ部屋のなかで、
あちらでは紙工作をしていて、
こちらでは粘土を触っていて。
窓辺で油絵を描く人の隣に
ミシンを使う人がいる。
そんな風景が、アルケミストでは日常だったのです。
でも、ちょうどスマートフォンがではじめたあたりから、
少しづつ、ちびっこの様子が変わってきました。
作りたいものがあっても、
ごく基本的なことができないために
完成をあきらめてしまう子が増えてきたのです。
もちろん、全員ではありません。
以前から少しはいたのですが、
できない子が増えてきたのです。
力加減がわからなくて、
うまくハサミで紙を切れない。
ひもをむすぶ、ということができない。
自分のイメージはあっても、
いろいろなものに触れる機会が
薄くなっているからなのでしょうか、
手も思い通りに動きませんし、
実現するための加工の見立てができないのです。
スマートフォンの普及をはじめとした、
インターネットが基盤になる社会への変化で
全身の感覚をフル稼働させる体験が
少なくなっているからだ、と私たちは考えました。
ごろごろころげまわったり、
追いかけっこしたり。
水を触ったり花を摘んでみたり。。
脳はごく簡単な動作の経験を重ねて、
複雑なことができるようになっていきます。
また、使えば使うほど、脳のその部分は発達し、
使わなければその部分の神経細胞は退化していきます。
(脳の可塑性)。
身体全体の神経を使う経験がへる、ということは、
「感じる」「色々な感覚を組み合わせて、
総合的に判断してうごく」
行為がへる、ということです。
それは、感じとる力そのものの低下と関係して、
発想の幅やコミュニケーション能力の低下にまで
つながっていると現場では実感しています。
つくることがすき、を共通項に、
つくる時間を通じて良い時間を過ごしてほしい。
そう思って続けてきたアルケミストですが、
とくにいまのちびっこには、
「足りない経験を補う」ことが
とても大切だ、と感じています。
体験は、その子の脳や人生に与える栄養のようなもの。
ごはんのように、
丁寧につくったものをバランスよく、
いろいろなものを食べてほしい。
それが本当にその子が自由に制作することに
つながる、と思っています。
わたしたちは、
それを制作を通じてやりたいと思っています。
ぜひ、色々な体験を
お子さんに重ねてあげて
いただきたいなと思います。
「体験」を「経験」にする
動作が身に付くための重要な要素は
「自分から」
「集中して」
「繰り返す」
ことです。
そして、
「たのしいこと」。
楽しい!という、自発的な状態がなければ、
どんな有効なエクササイズをしても、
その人に上手に吸収されてはいきません。
どういった行為をどのように紹介すれば、
ちびっこに身につく経験になるのか。
19年重ねてきた経験をつかいながら、
ゆったり、のんびり、進めていこうと思っています。
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とはいえ、それは大人の事情のおはなし。
彼らにはもう、とにかく、
楽しい時間を過ごしてほしいと思っています。
やりたい!という気持ち。
わくわくする感じ。
それが1番の、豊かな学びのスイッチなのですから。